九州経済同友会

令和6年度「九州経済同友会 会員合同懇談会」

2025.01.142025.01.16

会 場:
沖縄・石垣島

研究テーマ:「有人国境離島地域の重要性と振興策のあり方に関する研究

 経済安全保障や、有事での事業継続等の取り組みを、我が国最南端の防衛拠点である沖縄本島と石垣島で実際に視察する。

 一方で、人口流出や経済の低迷により地域社会の存続が脅かされている状況にある。今回、沖縄・石垣島を視察し、当該地域の重要性や地域活性化のあり方について考察した。

 

プログラム1 沖縄県 企画部地域・離島課との意見交換会

 有人国境離島は、観光資源や水産資源に恵まれており、安全保障の面からも重要な役割を果たしている。

 一方で、人口流出や経済の低迷により地域社会の存続が脅かされている状況にある。沖縄県と地域の重要性や地域活性化のあり方について議論した。

<令和5年度 沖縄県国民保護共同図上訓練の実施>

 2024年1月、沖縄県先島諸島5市町村の住民や観光客ら約12万人を九州・山口に避難させる図上訓練が実施された。民間航空機や船舶を活用し、最短6日で避難させる計画だが、輸送手段や生活支援の課題が多く、現実味に疑問の声も出ている。
 長崎県には、人口およそ4,000人の竹富町の住民が福岡空港経由で避難することが想定。収容可能と試算するが、計画の実現性には依然課題が残る。 
 訓練の結果、課題として「関係部局(交通、土木、医療福祉等)との連携強化」「航空、船舶双方の輸送力の確保」「人員体制」「家畜・ペット問題」「避難先での生活安定確保」が挙げられた。

 

プログラム2 沖縄科学技術大学院大学(OIST※)視察
※ Okinawa Institute of Science and Technology
 離島地域の振興策の一つとして、イノベーション創発と地域振興を目指す世界レベルの国際的な大学院大学を視察、意見交換を行った。
 沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、2001年に尾身幸次氏の構想を基に設立が計画され、2012年に開学した博士課程のみの大学院大学。教育研究は英語で行われ、学生・教員の半数以上が世界各国から集まる国際的な機関であり、従来の日本の大学にはない独自の運営形態を持つ。初代理事長にはノーベル賞受賞者のシドニー・ブレナー博士が就任。
 OISTは、2019年のNature Indexランキング(規模修正後)で世界9位、日本国内最高位となるなど、国際的に高く評価されている。その運営費・研究費は内閣府から提供されており、特に研究費は通常の国立大学の約2倍が投入されるハイトラストファンディングの手法が採用。OISTは沖縄の振興と科学技術の発展に寄与することを目的としている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
プログラム3 航空自衛隊那覇基地視察
 南西防衛区域における唯一の航空基地として重要な役割を果たす。那覇市の中心から南西約5㎞に位置し、隣接する那覇空港の滑走路を民間航空会社と共用する国土交通省管理の官民共用空港。
 航空自衛隊の13個の部隊等のほか、陸上自衛隊第15ヘリコプター隊及び海上自衛隊第5航空群という陸海空自衛隊が混在する特色のある基地である。
F15戦闘機およそ40機や哨戒機などが配備され「南西航空方面隊」を編成。近年は東シナ海だけでなく太平洋側でも中国軍空母の活動が活発化しており、同隊の緊急発進(スクランブル)は、2023年4~12月で全国555回のうち327回を占めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
プログラム4 海上保安庁 石垣海上保安部

 日本最南端に位置する海上保安部。八重山列島および尖閣諸島が属する石垣市、武富町、与那国町の1市2町の周辺海域、有人12島をはじめ多くの島々を管轄し、治安の維持、国境警備、海難救助や災害への対応している。
 マリンレジャーを楽しむ観光客の事故防止から外国漁船の取締り、密輸入・密入国対策など、いわゆる海上での警察や消防に加え、海洋調査や海上交通安全の役割を担う。

 尖閣諸島をめぐる問題では武力紛争への発展を抑止することが求められており、海上保安庁に期待される役割は非常に大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 

【参考】尖閣諸島中国漁船衝突事件(2010年9月7日)(写真右)

 尖閣諸島付近の海域をパトロールしていた巡視船「みずき」が、中国籍の不審船に退去を命じるも、漁船は違法操業を続行、逃走時に巡視船「よなくに」と「みずき」に衝突し2隻を破損させた。

 

プログラム5 石垣市との意見交換

 石垣市は、日本列島の最南西端に位置し、台湾まで約270km、沖縄本島から約400kmの距離にある。アジアとの結節点という地理的特性を持ち、亜熱帯農業や石垣牛の生産、マグロ漁などの一次産業に加え、マリンスポーツを中心とした観光業が盛んである。
 中山義隆市長は、意見交換の場で尖閣諸島について「紛れもなく日本固有の領土として歴史的事実がある」と強調した。尖閣諸島は1884年に実業家・古賀辰四郎氏の調査で無人島と判明し、1895年の閣議決定により日本領に編入された。当時、異議を唱える国はなかった。
 戦前には羽毛採取やかつお節製造が行われ、最盛期には248人が居住したが、1940年以降は無人島となった。その後、周辺海域で石油や天然ガスなどの資源埋蔵が確認されると、隣国が領有権を主張。2012年の国有化以降、隣国の挑発行為が激化している。
 隣国は中国海警船を周辺海域に常駐させ、管轄権の「既成事実化」を目指しているとみられる。一方、日本の海上保安庁は巡視船による警戒を続けているが、実効支配の維持が引き続き重要である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ≪所感≫

 地政学リスクの高まりを背景に、経済安全保障や海外危機管理が注目されている。
 国家間の緊張や紛争の発生といった地政学リスクは、原材料価格の高騰やサプライチェーンの混乱を招き、自社事業の継続が困難になる事態を引き起こす可能性がある。これらは企業活動に深刻な影響を与え、対策の必要性が高まっている。
 特に、国境を有する離島を抱える長崎県においては、有事において県民の生命を守ることが最優先事項である。この視点からも、地政学リスクへの対応策を地域全体で検討することが急務である。加えて、有事における長崎県が果たすべき役割を理解しておくことも肝要である。
 一方で、地域経済の持続可能性にも目を向けるべきである。人口減少は地域経済の衰退を招くため、経済基盤を強化し、地域を守る体制づくりも不可欠である。これらの取り組みを進める上で、「海」「空」における日本の国防のレベルを自身の目で確認できたことは非常に有意義な視察であった。

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